入社して 3 か月の面談で、「正直、聞いていた話と違いました」と言われる。採用のミスマッチを防ぐ手立てを探し始めるのは、たいていこの一言を聞いたあとです。
私たちの考えは単純です。入社した人がいずれ必ず知る大変なことは、入社前に、会社の側から見せておく。ただし並べるだけでは足りず、「なぜそうなのか」「その代わりに何が得られるか」と一緒に、働く本人の言葉で見せる。研究と新しい調査も、だいたい同じ方向を指しています。
入社後のギャップは、ほとんどの人が経験している
20〜30 代の 929 人に聞いた調査では、87% が入社後にギャップを感じたことがあると答えました[1]。想定より悪かったことの上位は、仕事内容(39%)と職場の雰囲気(38%)です。給与や休日のような、求人票に数字で書ける項目ではありません。
新卒に限っても、2022 年 3 月に大学を出て就職した人の 33.8% が 3 年以内に辞めています[2]。辞めた理由がすべてミスマッチではないにしても、3 人採ったうちの 1 人は、3 年のうちに辞めている計算です。
同じ調査で目を引くのは、ギャップを「事前に防げた」と答えた人が 42% いることです[1]。もっと確かめておけばよかったこととして最も多く挙がったのは、社員との面談(39%)でした。求職者は、働いている人から直接聞きたかったのです。
RJP とは、良い面も悪い面も入社前に伝える採用のこと
RJP(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)とは、仕事や職場の実態を、良い面だけでなく悪い面も含めて応募者に伝える採用の考え方のことです[3]。1970 年代から米国の産業心理学者 Wanous を中心に研究が重ねられ、日本では 1990 年代から紹介されてきました[3]。
ふつうの採用は、会社の魅力を伝えて応募者を集め、その中から会社が選びます。RJP は逆に、応募者にも選んでもらうことを重んじます。期待される効果は、次の 4 つに整理されています[3]。
| 効果 | 何が起きるか | 採用の現場で言うと |
|---|---|---|
| ワクチン効果 | 過剰な期待が事前に和らぎ、入社後の幻滅が小さくなる | 繁忙期の残業を知って入った人は、3 月に驚かない |
| スクリーニング効果 | 応募者が自分に合うかを判断し、自分で選んで入社する | 合わないと思った人が、選考の途中で降りる |
| コミットメント効果 | 会社の誠実さを感じ、愛着や帰属意識が高まる | 「ここまで話してくれる会社なら」と思ってもらえる |
| 役割明確化効果 | 入社後に求められる役割がはっきりし、慣れるのが早くなる | 1 年目に何をするかが分かっているので、迷わない |
効果は大きくない。効く仕組みは「誠実さ」
期待を持たせすぎないように書いておくと、RJP で定着率が大きく上がるわけではありません。海外の 4 本のメタ分析(多くの研究をまとめて分析したもの)を要約した資料は、定着と仕事の成果への効果を「ごく小さい」としています[4]。日本の企業 428 社を調べた研究でも、入社前後のショックは和らいだ一方、定着率への効果は特に見られませんでした[3]。
そのうえで、いちばん新しいメタ分析(2011 年)は、RJP が効く主な道筋を「この会社は正直だ」という受け止めだとしています[4]。期待を下げることより、隠さずに話してくれたという事実が効く。私たちは、RJP を離職率を下げる施策というより、入社した人に「聞いていた話と違う」と言わせないための約束だと考えています。
もう 1 つ、会社の魅力が下がって見えることも研究で分かっています[4]。応募が少なくて困っている会社ほど、ここが気になるはずです。次の節の調査は、その心配にかなり具体的に答えてくれます。
大変なことは、見返りと一緒に出すと応募意向は下がらなかった
2026 年 9 月に公表された調査で、2027 年卒の大学生 783 人に、書き方の違う架空の求人を見てもらい、応募したいかを比べています[5]。働きやすさなど良い面を中心にした求人、業務量や残業など厳しい面を中心にした求人、厳しい面を書いたうえで「若手から責任ある仕事を任される」といった見返りも書いた求人の 3 つです。
数値を表で見る
| 求人の書き方 | 応募意向(高群の割合) |
|---|---|
| 通常の求人(良い面を中心に伝える) | 52.1% |
| ネガティブ表現の求人(厳しい面を中心に伝える) | 52.1% |
| トレードオフ情報を含む求人(厳しさに見合うメリットもあわせて伝える) | 59.9% |
厳しい面だけを書いた求人は、良い面中心の求人と応募意向が同じでした。悪いことを書くと人が来なくなる、という心配は、少なくともこの実験では当たっていません。見返りまで書いた求人は 59.9% で、3 つの中でいちばん高くなっています[5]。
学生がもともと悪い情報を探していることも、同じ報告に出てきます。就職活動で口コミや SNS などの非公式な情報を確かめた学生は 70.6% で、その理由の 1 位は「ネガティブな情報も含めて判断材料にしたいから」(58.7%)でした[5]。会社が書かなくても、大変なことはどこかで知られます。それなら、理由と一緒に会社の側から先に出したほうがいい。
注意したい結果もあります。見返りを書いた求人に、それと食い違う悪い口コミが付くと、応募意向は口コミが無いときより 8.8 ポイント下がりました[5]。見返りを盛るほど、実態とのずれは目立ちます。書く見返りは、現場の人が「本当にそうだ」と言えるものに限ってください。
何を出すかは、辞めた人の理由と、面接で聞かれる問いから決める
RJP の情報は、会社が見せたいことからではなく、入社した人がつまずいたことから選びます。材料は社内にあります。この 1〜3 年に辞めた人の退職理由、入社 3 か月の面談で出た「思っていたのと違った」、面接の最後に応募者が聞いてくる質問です。求職者の側でも、面接の逆質問で残業や職場の実態を確かめるやり方が広まっています。聞かれる前に答えておけば、面接の時間を別の話に使えます。
集めたら、1 つずつ下の 5 つの欄を埋めます。表の中身は書き方の例で、実在の会社のものではありません。
| 大変なこと | なぜそうなのか | その代わりに得られるもの | 会社の手当て | だれが話すか |
|---|---|---|---|---|
| 3 月と 9 月は残業が月 30 時間ほどに増える | 取引先の決算期に注文が集中する | ほかの月は 10 時間前後で、有給を取りやすい | 繁忙期は他部署から応援を出す | 入社 3 年目の営業 |
| 1 年目は既存のお客様の対応が中心で、新規の提案はまだ任されない | 製品の知識がないと提案が外れる | 2 年目から担当を持ち、提案の幅が広い | 1 年目は先輩の商談に同席する | 配属先の課長 |
| 配属先によって忙しさがかなり違う | 担当する業界の波が違う | 2〜3 年で別の業界も経験できる | 異動の希望を年 1 回聞く | 人事の担当者 |
「会社の手当て」が空欄になる行は、出す前に手当てを考える行です。空欄のまま「大変です」とだけ伝えると、求職者には「大変なまま放ってある」と伝わります。逆に、ここが埋まる行は、そのまま採用の強みとして話せます。
求人の書き方には法律の決まりがある
募集の情報は、虚偽や誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確で最新の内容に保つ義務があります(職業安定法 第 5 条の 4)[6]。2024 年 4 月からは、入社直後だけでなく将来の配置転換も含めた「業務の変更の範囲」と「就業場所の変更の範囲」を、募集の時点で示すことになりました[7]。新卒者等を対象にした募集では、応募者などから求めがあれば、離職者数や研修、残業時間などの職場情報を 3 つの類型それぞれ 1 つ以上出す義務もあります[8]。動画で話す内容も、求人票と食い違わないように確かめてください。個別の判断は社会保険労務士・弁護士に相談してください。
動画にすると、だれがどんな顔で言うかまで伝わる
同じ「繁忙期は残業が増えます」でも、求人票の 1 行と、3 年目の社員が少し笑いながら「3 月はさすがに帰りが遅いです。そのぶん 5 月は休みを固めて取ってます」と話す 20 秒とでは、受け取る印象がまるで違います。先に見た研究の要約でも、動画で伝えた RJP は、口頭や文書で伝えたものより、受け入れられやすく、会社が正直だと感じられやすいとされています[4]。
大変なことを話してもらう場面は、台本で言わせると嘘っぽくなります。質問だけを決めて、答えは本人の言葉に任せてください。次の順で聞くと、話が理由と見返りまで自然につながります。
【大変なことを話してもらうシーン(1〜2 分)】
話す人: 入社 2〜3 年目、または配属先の上司
1. 入社してから、いちばん大変だったのはいつ、どんなことでしたか
2. それは、なぜそうなっていると思いますか
3. そのとき、だれが、どう助けてくれましたか
4. 大変だったぶん、できるようになったことはありますか
5. 入る前の自分に、ひとこと伝えるなら
撮る前に本人と決めておくこと
・名前や顔を出す範囲、公開する場所
・お客様や取引先の名前、社外に出せない数字は話さない
・話した数字(残業時間など)は、求人票と合っているか人事が確かめる
5 番目の質問は、短くて使いやすい答えが返ってきやすい質問です。「最初の 3 か月は覚えることが多いけど、先輩に聞けば大丈夫」のような一言は、どんな会社紹介よりも、入社後の姿を具体的に想像させます。撮り方や機材の話は採用動画の作り方にまとめました。
見る人が、知りたい大変さを選べるようにする
大変なことを 1 本の長い動画に詰めると、知りたくないことまで見せられ、途中で閉じられます。問いごとに短いシーンに分け、見る人が選べるようにすると、自分に関係のある大変さだけを確かめられます。
動画で採用では、こうした分岐する採用動画を、撮った動画を「シーン」として並べ、「選択肢」でつなぐだけで作れます。どの選択肢がよく選ばれたかも分かるので、求職者がいちばん気にしている大変さが何かを、面接の前に知ることができます。
効果は、応募数ではなく入社後の数字で確かめる
RJP を始めると、応募数は少し減るかもしれません。それは失敗ではなく、合わない人が自分で降りた結果でもあります。見るべきは、入社したあとの数字です。
- 入社 3 か月・1 年の時点で辞めた人の数と割合(始める前の 2〜3 年と比べる)
- 入社 3 か月の面談で「聞いていた話と違った」と答えた人の割合と、その中身
- 面接で応募者から出る質問の変化(残業や雰囲気の質問が減り、仕事の中身の質問が増えたか)
- 内定を出した人の承諾率と、承諾後の辞退
人数の少ない会社では、割合が 1 人の出入りで大きく動きます。数字は 2〜3 年分を並べて、「聞いていた話と違った」の中身と一緒に見てください。中身が「残業」から「仕事の進め方」に移っていれば、出した情報が届いて、次に出すべきことが見えてきたということです。
見せる時期は、入社前で終わりにしなくてかまいません。研究の要約では、入社直後に伝える RJP は、入社前のものより自分から辞める人を減らす効果がやや大きいとされています[4]。内定から入社までの期間に同じ動画を見返してもらうやり方は、内定辞退を防ぐ方法で書きました。
求職者の側から見たミスマッチの話は、姉妹サイトの第二新卒が 1 社目と同じミスマッチを繰り返さないための記事にあります。採用する側が出した情報を、受け取る側がどう確かめているかが分かります。


