AIエージェントは、採用業務のうち「文章を作る・整える・集める」作業の下書き係として、今日から使えます。一方で、合否の判断や応募者の順位付けは任せず、最後は人が確かめて決めるのが前提です。

この記事では、AI エージェントとは何かを短く押さえたうえで、1〜3 人で採用を回している担当者向けに、採用業務のどこに使えるかを表にし、そのまま貼って試せるプロンプトと、人が必ず確かめるところをまとめます。

AIエージェントとは? チャットの生成AIとの違い

AI エージェントとは、目標を渡すと、道具を使いながら複数の手順を自分で進める AI のことです。チャットの生成 AI が「1 回の質問に 1 回答える」のに対し、エージェントは「調べる・下書きする・確かめる・直す」を続けて進めます。

総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」は、AI エージェントを「特定の目標を達成するために、環境を感知し自律的に行動する AI システム」と定めています[3]。Claude を開発する Anthropic も、エージェントを、言語モデルが自分の手順と道具の使い方を決めていく仕組みと説明しています[2]。

生成 AI(チャット)
質問や指示(プロンプト)に応えて、文章や画像を作る AI のこと。答えを 1 回返して止まる。
AI エージェント
目標に向けて、ファイルを読む・検索する・表を作るなどの道具を使い、手順を自分で決めて進める AI のこと。
道具(ツール)
AI が使える機能のこと。ファイルの読み書き、ウェブ検索、表計算、カレンダーやメールとの連携など。

チャットの生成 AI

  • 1 回の指示に 1 回答える
  • 材料は人が貼り付ける
  • 次の手順は人が考えて指示する
  • 例: 求人票の文章を直してもらう

AI エージェント

  • 目標を渡すと、手順を分けて進める
  • ファイルや検索などの道具を自分で使う
  • 途中の結果を見て、やり方を直す
  • 例: 応募の一覧を読み、返信の下書きと候補日の表まで作る

大事なのは、エージェントは「途中で人の確認を挟める」点です。Anthropic は、エージェントが各手順で道具の結果を確かめながら進み、決めておいた確認の場面で人の判断を待てることを、作り方の要点に挙げています[2]。採用で使うなら、この「人の確認」を手順に必ず入れます。

採用業務のどこに使える? 6 つの作業と任せ方

任せやすいのは、答えの形が決まっていて、人があとから確かめられる作業です。求人票、スカウト文、応募者への一次返信と日程調整、面接メモの整理、採用動画の台本と字幕、応募データの集計の 6 つが当てはまります。

採用業務で AI エージェントに任せやすい作業と、人が確かめる所
作業AI に任せること人が確かめること任せやすさ
求人票の下書き仕事内容のメモから、見出しと文章を整える。抜けている項目を挙げる給与・勤務時間・雇用形態が事実どおりか。誇張が無いか高い
スカウト文求人の要点と候補者の公開プロフィールから、個別の文面を作る相手の経歴の読み違い。送る相手と回数高い
一次返信と日程調整応募のお礼、面接の候補日の提示、持ち物の案内を下書きする候補日が空いているか。宛先と名前。送る前の最終確認中(送信は人)
面接の評価メモの整理面接官のメモを、評価項目ごとの事実の要約に並べ替える評価そのもの。項目に関係の無い話が混ざっていないか中
採用動画の台本・字幕見る人の問いから台本の骨組みを作る。話した内容から字幕の下書きを作る本人の言葉か。事実と違う表現・言い過ぎが無いか高い
応募データの集計媒体別の応募数・選考の通過数を表にし、週ごとの変化をまとめる元のデータとの突き合わせ。個人名を外しているか高い

反対に、合否の判断、応募者の順位付け、書類の点数付けは任せません。理由は後の「人が必ず確かめるところ」で説明します。AI が作るのは、人が判断するための材料と下書きまでです。

手元の AI で、どこまでできるか

特別な採用ツールが無くても、ChatGPT、Claude、Microsoft Copilot などのチャットで、表の作業の多くは試せます。ファイルを読ませて表を作るといったエージェントらしい動きは、各サービスのファイル読み込みや、Claude Code のように手元のフォルダで作業する道具で試せます。

使える機能や、入力したデータの扱いは、サービスと契約の種類で違います。会社で使う前に、各社の利用規約とデータの設定を確かめてください。

企業の生成AI活用はどこまで進んでいるか

生成 AI を業務で活用している企業は、2026 年 3 月の時点で 34.5% です。帝国データバンクが全国 23,349 社に尋ね、10,312 社が答えた調査の結果です[1]。会社が小さいほど割合は低く、中小企業は 32.4%、小規模企業は 28.0% でした。

従業員 1,000 人超 63.6% 大企業 46.5% 全体 34.5% 中小企業 32.4% 小規模企業 28.0% 有効回答 10,312 社(2026 年 3 月 17〜31 日)
図 1: 生成 AI を業務で活用している企業は 3 社に 1 社。中小・小規模企業は 3 割前後(出典: 帝国データバンク 2026 年 3 月調査[1])
数値を表で見る
区分活用している
従業員 1,000 人超63.6%
大企業46.5%
全体34.5%
中小企業32.4%
小規模企業28.0%

使っている会社では、86.7% が「業務への効果が出ている」と答えています[1]。使い道は、活用している 3,560 社のうち「文章の作成・要約・校正」が 45.1% で最も多く、「情報収集」21.8%、「企画立案時のアイデア出し」11.0% が続きます[1]。

同じ調査は、生成 AI が業務判断そのものの代わりではなく、判断の手前の情報整理や文章化の補助として使われている、とまとめています[1]。採用でも、まずはこの使い方がいちばん安全で、効果が見えやすいところです。

情報の正確性 50.4% 専門人材・ノウハウ不足 41.3% 活用すべき業務の範囲 40.0% 情報漏洩のリスク 33.5% 責任の所在のルール 25.5% 3 つまでの複数回答
図 2: 生成 AI 活用の懸念は「情報の正確性」が最多。人が確かめる手順が要る(出典: 帝国データバンク 2026 年 3 月調査[1])
数値を表で見る
懸念・課題割合
情報の正確性50.4%
専門人材・ノウハウ不足41.3%
生成 AI を活用すべき業務の範囲40.0%
情報漏洩のリスク33.5%
トラブル時の責任所在などのルール整備25.5%

懸念の 1 位は「情報の正確性」で 50.4% でした[1]。2 位以下の「ノウハウ不足」「どの業務に使うか」は、この記事の表と手順で埋められます。正確性は、人が確かめる手順で補います。

AIエージェントで採用業務を進める手順とプロンプト

最初は、1 つの作業を「AI が下書き → 人が確かめる → 人が送る」の形で試します。下の 4 つのプロンプトは、ChatGPT、Claude、Copilot などのチャットにそのまま貼って使えます。「」の中を自社の内容に置き換えてください。

図 3: 応募者への一次返信と日程調整の流れ。AI は下書きと候補日まで、確認と送信は人

1. 求人票の下書き

仕事内容のメモから求人票を整え、抜けている項目を挙げさせます。事実と違う表現が混ざらないよう、「書かれていないことは書かない」と指示するのがコツです。

あなたは中小企業の採用担当を手伝うアシスタントです。
次のメモから、求人票の下書きを作ってください。

# 守ること
- メモに書かれていない条件(給与・休日・手当など)は作らない。
  足りない項目は「要確認」として最後に一覧にする。
- 「アットホーム」「やりがい」など、根拠の無いあいまいな言葉は使わない。
- 性別・年齢を限る表現は使わない。

# 形
見出し: 仕事内容 / 1 日の流れ / 求める経験 / 働く条件 / 選考の流れ
各見出しは 3〜5 行。最後に「要確認の項目」を箇条書き。

# メモ
「職種、仕事内容、1 日の流れ、給与、勤務時間、休日、勤務地を貼る」

2. 応募者への一次返信と日程調整

応募のお礼と面接の候補日の案内を下書きさせます。候補日は自分のカレンダーの空きを貼り、AI に予定を推測させないようにします。送信ボタンは人が押します。

応募者への一次返信メールを下書きしてください。

# 材料
- 応募者の呼び方: 「姓」様(名前以外の個人情報は入れません)
- 応募した職種: 「職種」
- 面接の形: 「オンライン / 来社」 所要 「45」 分
- 面接できる日時(この中からだけ選ぶ):
  「10/14 10:00-12:00」「10/15 14:00-17:00」「10/17 9:00-11:00」

# 形
- 件名と本文。本文は 250 字前後、ていねいだが短く。
- 候補日は 3 つ、箇条書き。都合が合わないときの返し方も 1 文で。
- 最後に、送る前に人が確かめる点を 3 つ挙げる(宛先・日時・名前など)。

3. 面接の評価メモの整理

面接官ごとのばらばらのメモを、評価項目ごとの「聞いた事実」に並べ直させます。評価や合否は書かせず、項目に関係の無い話は外すよう指示します。

プロンプトと AI の出力の例を画面風にした図。左に面接メモの整理を頼むプロンプト、右に評価項目ごとに事実だけを並べた出力と、外した情報の注記
図 4: 面接メモの整理の例。AI は事実を並べ替えるだけで、点数や合否は付けない(例の文章は架空)
次の面接メモを、評価項目ごとに整理してください。

# 守ること
- 合否・点数・順位は書かない。判断は面接官がする。
- メモにある事実だけを使う。推測や言い換えで意味を足さない。
- 評価項目に関係の無い情報(家族、出身地、生活環境、思想・信条など)は
  書き写さず、「関係の無い情報を除いた」とだけ書く。

# 評価項目
「1. 仕事の経験 2. 課題への向き合い方 3. チームでの働き方 4. 志望の理由」

# 形
項目ごとに、メモからの事実を 2〜4 行。根拠が無い項目は「メモに記載なし」。
最後に、次の面接で確かめるとよい質問を 3 つ。

# メモ(氏名は「候補者 A」に置き換えて貼る)
「面接官のメモを貼る」

4. 採用動画の台本と字幕の下書き

求職者が知りたい問いから、問いごとの短い動画の台本を作らせます。台本は要点だけにし、答えは社員本人の言葉で話してもらうと自然になります。撮影から公開までの流れは採用動画の作り方で紹介しています。

当社の採用動画の台本の骨組みを作ってください。

# 会社と職種
「業種、職種、人数、働き方の特徴を 3〜5 行で」

# 作り方
- 求職者がこの職種で知りたい問いを 6 つ挙げる
  (仕事の中身、大変なこと、1 日の流れ、一緒に働く人、残業、育ち方 など)。
- 問いごとに、60〜90 秒の動画の台本の骨組みを作る:
  話す人(役割) / 最初の 1 文 / 話してもらう要点 3 つ / 映す場面。
- 要点は、社員に聞く質問の形で書く。答えの文章は作らない。
- 誇張(「必ず」「業界 No.1」など)を使わない。

このように問いごとに撮った短い動画は、1 本の長い動画にまとめる必要はありません。たとえば動画で採用では、それぞれを「シーン」として「シナリオ」につなぎ、見る人が「選択肢」から知りたい問いを選んで進めます。字幕も動画の音声から下書きを作れるので、人は言い回しと固有名詞を中心に直します。

エージェントに続けて任せるときの指示

応募データの集計のように手順が多い作業は、エージェントに「目標・材料・止まる所」を渡します。Claude Code のように手元のファイルを読める道具なら、次のように頼めます。

目標: 先月の応募状況を、上司に見せる 1 枚の表にまとめる。

材料: このフォルダの「applications.csv」(媒体、応募日、選考の段階)。
     氏名・連絡先の列は使わない。

手順:
1. 媒体別・週別の応募数と、書類通過・面接・内定の数を数える。
2. 数え方(どの列のどの値を何と数えたか)を最初に書き出して、
   私の確認を待つ。確認の前に表を作らない。
3. 確認後、表と、目立つ変化を 3 行で書く。推測は「推測」と書く。

止まる所: 列の意味が分からないとき、数が合わないときは、
         自分で決めずに質問する。

「確認の前に先へ進まない」「分からないときは質問する」を書いておくと、人の確認の場面が手順に組み込まれます。

人が必ず確かめるところ

AI に任せても、合否の判断、差別につながる情報、個人情報、求人の表示の正しさの 4 つは、人が確かめて責任を持ちます。面接そのものに AI を使う場合の注意はAI面接の導入ガイドで詳しく扱っています。ここは法律やガイドラインに関わるため、社内のルールにしておくのがおすすめです。

合否と順位は人が決める

AI 事業者ガイドラインは、AI の出力が公平性を欠かないよう、AI に単独で判断させるだけでなく、適切な場面で人間の判断を介在させることを求めています[3]。あわせて、人が AI の判断をうのみにしない対策も挙げています[3]。

書類の点数付けや順位付けを AI に任せると、学んだデータの偏りがそのまま選考に入るおそれがあります。AI の出力は「判断の材料の一つ」として扱い、決めた理由を人の言葉で記録しておきます。

差別につながる情報を入れない・使わない

厚生労働省は、家族や生活環境など、応募者の適性・能力と関係の無い事項で採否を決めないこと、そうした事項を把握しないことが大切だとしています[6]。把握すれば、採用基準にしないつもりでも結果として影響し、就職差別につながるおそれがあるためです[6]。

AI に渡すメモからも、こうした情報は消してから貼ります。上の面接メモのプロンプトで「関係の無い情報は書き写さない」と指示しているのはこのためです。

個人情報は入れる前に確かめる

個人情報保護委員会は、事業者が生成 AI に個人情報を含むプロンプトを入れるときは、利用目的の範囲内かを十分に確かめるよう注意を促しています[4]。本人の同意なく個人データを入れ、それが応答以外の目的に使われると、法律に違反するおそれがあるとも書いています[4]。

入れる前のチェック

  • 会社として使ってよいと決めたサービスと契約か
  • 入力した内容が AI の学習に使われない設定か(サービスの規約と設定で確かめる)
  • 氏名・連絡先・生年月日は外すか、「候補者 A」などに置き換えたか
  • 応募者に示している個人情報の利用目的の範囲内か
  • AI が作ったファイルや会話の記録を、どこに、いつまで残すか決めたか

求人の表示が正しいか

職業安定法では、求人を出す企業に、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしないこと、求人情報を正確で最新の内容に保つことが求められています[5]。AI が整えた求人票も、出すのは会社です。

給与・勤務時間・雇用形態・勤務地は、AI の文章を元の条件と 1 行ずつ突き合わせます。募集を終えたり条件を変えたりしたら、すぐに求人も直します[5]。

判断に迷ったら

ここに書いたのは、公的な資料に沿った一般的な注意です。自社の使い方が法律に照らして問題が無いかは、社会保険労務士や弁護士に相談してください。

小さく始める導入の手順

導入は、1 つの作業を 4 週間、下書きだけで試すところから始めます。Anthropic も、まず単純なプロンプトで試し、それで足りないときだけ手順の多い仕組みに進むことを勧めています[2]。

  1. 1 週目: 作業を 1 つ選び、今の時間を測る

    求人票の手直しや一次返信など、毎週くり返す作業を 1 つ選びます。今 1 件に何分かかっているかを 3〜5 件分メモします。

  2. 1 週目: 使うサービスと、入れてよい情報を決める

    会社として使うサービスと、入れてよい情報・入れない情報を 1 枚にまとめます。上の「入れる前のチェック」をそのまま下書きにできます。

  3. 2 週目: プロンプトを社内用に直す

    この記事のプロンプトに、自社の言葉づかいや評価項目を足します。よかった出力と、直した点を残しておきます。

  4. 3 週目: 下書きだけで本番に使う

    AI の下書きを人が確かめ、人が送ります。直した回数と、かかった時間を記録します。

  5. 4 週目: 振り返って、続けるか決める

    1 件あたりの時間、直した量、困ったことを見て、続ける・やめる・次の作業に広げるを決めます。エージェントに続けて任せる作業(集計など)は、ここから足します。

続けるための 3 つの決まり

  • AI が作るのは下書きまで。送る・決めるのは人
  • うまくいったプロンプトは、チームの共有の場所に置く
  • 月に 1 回、使い方とルールを見直す