面接の最初の数分、相手の緊張をほぐそうとして「ご家族は何をされているんですか」と聞く。悪気はなくても、これは面接で聞いてはいけない質問の代表です。ハローワークに寄せられる不適切な質問の事例も、多くはこの「雑談のつもり」から始まっています[3]。
私たちは、聞いてはいけない質問を NG ワードの一覧として覚えるより、先に「この面接で何を判断するのか」を決めて、そこから質問を作るほうが確実だと考えています。判断に使わない質問は、最初から用意しなくて済むからです。
面接で家族のことを聞かれた応募者は、いまも 3 人に 1 人いる
連合が 2026 年 4 月、最近 3 年以内に採用試験を受けた 15〜29 歳の 1,000 人に聞いた調査では、面接で「家族に関すること」を質問された人が 36.9%、「本籍地や出生地に関すること」が 35.4% いました[1]。どちらも、厚生労働省が採用選考で尋ねないよう求めている事項です[2]。
数値を表で見る
| 面接で質問されたこと | 割合 |
|---|---|
| 家族に関すること(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など) | 36.9% |
| 本籍地や出生地に関すること | 35.4% |
| 尊敬する人物に関すること | 30.2% |
| 生活環境・家庭環境などに関すること | 29.6% |
| 人生観、生活信条に関すること | 28.6% |
減ってもいません。本籍地や出生地を聞かれた人は、3 年前の調査の 28.3% から 7.1 ポイント増えました[1]。面接で不適切だと思う質問や発言をされたと答えた人は 18.0% で、自由回答には「親の年収を聞かれた」「自分の恋愛タイプを聞かれた」「体型やメイクについて言及された」が並んでいます[1]。
応募者の側は、もう知っています。同じ調査で、聞いてはいけない質問を 1 つでも知っていた人は 1,000 人中 850 人。知った経路の 1 位は「HP や SNS で見た」でした[1]。面接官が知らずに聞いた一言は、応募者には「この会社は知らないのか、気にしないのか」と受け取られます。
面接で聞いてはいけない質問とは、適性・能力と関係のない 14 の事項を尋ねること
厚生労働省は、公正な採用選考の基本を 2 つにまとめています。応募者の基本的人権を尊重すること、そして応募者の適性・能力だけを基準にすることです[2]。そのうえで、就職差別につながるおそれがあるとして、採用選考で配慮すべき 14 の事項を示しています。
| 事項 | 聞き方の例 |
|---|---|
| 本人に責任のない事項 | |
| 本籍・出生地、家族(職業・続柄・健康・病歴・地位・学歴・収入・資産など)、住宅状況(間取り・部屋数・住宅の種類・近隣の施設など)、生活環境・家庭環境 | 「ご家族の職業は?」「お父さん・お母さんは就職について何と言っていますか」「兄弟は何人?」「出身は何県?」「生まれてからずっと今の住所ですか」 |
| 本来自由であるべき事項(思想・信条) | |
| 宗教、支持政党、人生観・生活信条、尊敬する人物、思想、労働組合・学生運動などの社会運動、購読新聞・雑誌・愛読書 | 「尊敬する人物は?」「選挙には行きましたか」「愛読書は?」「新聞は何を読んでいますか」 |
| 採用選考の方法 | |
| 身元調査、適性・能力と関係のない事項を含む応募書類、合理的・客観的な必要性のない採用選考時の健康診断 | 戸籍謄本や本籍入りの住民票を出させる、自宅付近の略図を書かせる、職種に関係なく健康診断書を一律に出させる |
聞き方の例は、京都労働局が研修資料で「不適切なおそれのある事例」として挙げている質問を元にしています[4]。厚生労働省は、これらを採否の判断に使わなくても、把握するだけで結果として採否に影響し、就職差別につながるおそれがあるとしています[2]。聞いたら、評価する側の頭に残るからです。
応募者への影響もあります。愛知労働局のリーフレットは、何気なく聞いたことでも、応募者にとって聞かれたくないことであれば、その一言で動揺し、面接で本来の力を出せなくなることがあると書いています[3]。家庭の事情を抱えた応募者ほど、ここで崩れます。
法律で決まっていること
職業安定法(第 5 条の 5)とその指針で、募集する企業は、人種・民族・社会的身分・門地・本籍・出生地など社会的差別の原因となるおそれのある事項、思想・信条、労働組合への加入状況を、原則として集めてはならないとされています。違反すると改善命令の対象になり、命令に従わなければ罰則もあります[4]。男女雇用機会均等法では、採用面接で結婚の予定や子どもが生まれた後も働き続けたいかを女性にだけ質問することが、禁止される差別の例に挙がっています[5]。さらに 2026 年 10 月 1 日からは、面接や説明会などで求職者へのセクシュアルハラスメントを防ぐ措置が、すべての事業主の義務になりました。面談の時間・場所・やり取りに使う SNS などのルールを決めて周知すること、求職者向けの相談窓口を決めて知らせることなどが含まれます[6]。個別の判断は社会保険労務士・弁護士に相談してください。
「尊敬する人物」「愛読書」「短所」は、知りたいことを直接聞く形に言いかえる
家族や出身がだめなことは、多くの面接官が知っています。迷いやすいのは、昔からの定番の質問です。尊敬する人物は、歴史上の人物や目標とする人物であっても、本来自由であるべき思想・信条に関わる事項として扱われます[4]。連合の調査でも、面接で尊敬する人物を聞かれた人は 30.2% いました[1]。
こうした質問の多くには、面接官が本当に知りたいことが別にあります。それを直接聞けば、答えも評価に使いやすくなります。
| よくある質問 | 知りたいこと | 代わりの質問 |
|---|---|---|
| ご家族は何をされていますか(緊張をほぐすつもりで) | 話しやすい空気を作りたい | 今日の面接のために、どんな準備をしてきましたか |
| 尊敬する人物は誰ですか | 目標の立て方、物事への向き合い方 | 自分で目標を決めて取り組んだことを 1 つ教えてください。どう進めましたか |
| 愛読書は何ですか/新聞は何を読んでいますか | 自分で学ぶ習慣があるか | この仕事に関係することで、最近自分で調べたことはありますか |
| あなたの短所を教えてください | うまくいかないときの対処の仕方 | 学生生活(前の職場)で直面した困難な出来事に、どう工夫して対応しましたか |
| 出身はどちらですか/実家暮らしですか | 通勤や勤務地に無理がないか | 勤務地は求人票のとおりです。通勤や勤務の条件で確かめておきたいことはありますか |
| 結婚の予定はありますか | 長く働いてもらえそうか | 入社して 3 年後、どんな仕事をしていたいですか |
短所の質問が入っているのは意外かもしれません。京都労働局の資料は、応募者が身体の特徴や健康状態を短所だと考えている場合、聞く側にそのつもりがなくても不要な情報を把握してしまうおそれがあるとして、困難な出来事への対応を聞く形への言いかえを勧めています[4]。同じ資料は、職種に関係する専門書について意見を聞きたいなら、質問の意図が分かるように聞けばよいとも書いています。
応募者が自分から家族の話をしたときは、深く聞き返さず、仕事の話に戻します。愛知労働局のリーフレットには、応募者が「ひとり親家庭」だと話したのを受けて、励ますつもりで家庭環境に触れてしまった事例が載っています[3]。善意でも、面接の記録に家庭の事情が残れば同じことです。
面接の質問は、評価の基準から逆算して先に決める
厚生労働省は、面接では事前に質問の項目と評価の基準を決め、適性・能力と関係のない事項は尋ねないようにすることを求めています[2]。愛知労働局のチェックポイントにも、質問事項をあらかじめ決めておくこと、複数の面接担当者で評価すること、質問と注意点を面接担当者全員で確かめることが並んでいます[3]。
聞いてはいけない質問が出るのは、たいてい台本の外です。沈黙が怖くて、話をつなぐために身近な話題を探す。だから私たちは、NG の一覧を配るより、台本そのものを評価の基準から作ることを勧めます。次の順で作ると、半日ほどで 1 職種分ができます。
- その仕事に要る力を 3〜4 個に絞る
求人票の仕事内容から、入社 1 年目に必ず使う力を書き出します。「明るさ」「素直さ」のような人柄の言葉ではなく、「初対面のお客様から要望を聞き出す」のように行動で書きます。
- 力ごとに、過去の行動を聞く質問を 1 つ作る
「〜したときのことを教えてください」の形にし、深掘りの質問(そのとき何をしたか、結果どうなったか)を 2 つ添えます。
- 答えの見方を言葉で決める
「よい答え」「物足りない答え」の例を 1 行ずつ書きます。面接官によって評価がぶれるのを減らせます。
- 面接官全員で、1 問ずつ 4 つの問いに当てる
京都労働局の資料にある問いです。その質問はする必要があるのか。なぜその情報が必要なのか。応募者に理由を説明できるか。客観的に見て本当に必要だと判断してもらえるか[4]。1 つでも答えに詰まる質問は外します。
- 雑談の話題も、台本に書いておく
最初の 1〜2 分の話題(今日の交通、会社の第一印象など)も決めておくと、その場で家族や出身の話を探さずに済みます。
できあがる質問シートは、たとえば次のような形です。
【面接の質問シート(例: 法人営業・新卒)】
最初の 2 分(評価しない)
・今日はどうやって来られましたか。迷いませんでしたか
・会社に入ってみて、最初にどんな印象を持ちましたか
力 1: 相手の要望を聞き出す
質問: 相手が何を求めているか分からないまま、
話を進めなければならなかった経験を教えてください
深掘り: そのとき、何をどう確かめましたか / 結果どうなりましたか
見方: 相手に質問して確かめた行動が具体的に出るか
力 2: 決めたことを最後までやり切る
質問: 自分で目標を決めて取り組んだことを 1 つ教えてください
深掘り: 途中でうまくいかなかったときは / 何を変えましたか
見方: 途中のつまずきと、その立て直し方が話せるか
力 3: 新しい知識を自分で身につける
質問: 最近、必要に迫られて自分で調べたり学んだりしたことは
深掘り: どうやって調べましたか / それをどう使いましたか
見方: 調べ方と、使った場面が具体的に出るか
聞かないこと(面接官全員で確認)
・家族、出身、住まい、生活環境
・尊敬する人物、愛読書、支持政党、宗教
・恋人、結婚や出産の予定、容姿
シートに「聞かないこと」を書いておくのは、新しく面接官になった人のためです。役員や現場の管理職が面接に入るときほど、この 1 枚が効きます。
転勤・残業・健康は、仕事に必要な理由を先に伝えてから聞く
14 事項には入っていなくても、聞き方で揉めやすい質問があります。連合の調査で面接でいちばん多く聞かれていたのは「転勤ができるかどうか」(41.7%)と「残業や休日出勤ができるかどうか」(39.2%)でした[1]。実際に転勤や残業がある仕事なら、確かめること自体はおかしくありません。問題は、会社が何も説明しないまま「できますか」とだけ聞くことです。
先に、どのくらいの頻度で、どこへの転勤があるのか、残業はどの時期に何時間ほどかを会社の側から話し、そのうえで「この条件で働けそうですか」と聞きます。応募者は答えやすくなり、入社後に「聞いていた話と違う」と言われることも減ります。大変なことを先に伝える考え方は、採用のミスマッチを防ぐ RJP にまとめました。こうした説明を毎回の面接で繰り返すより、働く人が答える動画にしておく手もあります。動画で採用では、「残業は実際どのくらい?」のような選択肢から、その答えのシーンを応募者が選んで見られます。
健康のことは、さらに慎重に扱います。職種に関係なく健康診断書を一律に出させることや、既往歴を確かめることは、不適切なおそれのある例です[4]。一方で、食品の製造で直接アレルギーの元に触れる仕事で食物アレルギーを確かめる、配送の仕事で安全な運転に関わる発作の有無を確かめる、といった合理的な必要性がある場合は考えられるとされています[4]。その場合も、病名だけで判断せず、なぜ確かめるのかを先に伝えます。
書類も同じ線の上にあります。連合の調査では、採用試験で戸籍謄(抄)本の提出を求められた人が 39.1%、内定の前に健康診断書の提出などを求められた人が 42.1% いました[1]。戸籍謄本や本籍入りの住民票を出させることは、14 事項の「本籍・出生地」にあたります[2]。昔から使っている会社独自の応募書類に、本籍や家族の欄が残っていないかも確かめてください。
SNS の調査と AI 面接も、同じ線の内側でやる
面接の外で応募者を調べることも増えています。採用選考の途中で企業から SNS のアカウントを調べられたことがある人は 21.8% で、3 年前より 11.1 ポイント増えました[1]。京都労働局の資料は、SNS には趣味や思想・信条など選考に要らない情報が含まれうるため、調べた結果が業務の目的を外れた個人情報の収集になり、職業安定法違反となる可能性があるとしています。応募者の住まいの近くでの聞き込みは、身元調査につながるおそれがあります[4]。
AI 面接も例外ではありません。連合の調査では、AI 面接を受けたことがある人は 20.6% で、企業が AI で選考することを「よい印象」と答えた人(29.4%)と「よくない印象」と答えた人(27.1%)はほぼ同じでした[1]。AI に質問させるなら、その質問の一覧も、評価に使う項目も、ここまでの 14 事項の線で人が確かめます。導入のときに見ておくことは AI 面接の導入ガイドに書きました。
高校生などの採用選考で不適切な質問を受けたという情報は、毎年ハローワークに数多く寄せられ、ハローワークはそれをもとに企業へ事実確認や是正指導を行っています[3]。応募者がその場でどう答え、どこに相談できるかは、姉妹サイトの面接で不適切な質問をされたときの答え方と相談先にまとめています。面接官の一言が、応募者にどう届いているかを知る手がかりにもなります。


