ゴールデンウィークが明けて、配属された新人が席でじっと画面を見ている。上司は会議続きで、隣の先輩も自分の仕事で手一杯。「何か分からないことがあったら聞いてね」とは言ってある。早期離職の対策を本気で探し始めるのは、たいてい、この新人が夏までに辞めたあとです。

私たちの考えを先に書きます。新入社員が早く辞めるかどうかは、入社してからの 3 か月の過ごし方で差がつきます。効くのは制度を増やすことより、「何をすればいいか分からない時間」と「聞いていた話と違う」を作らないこと。動画は、その手当てを入社前に前倒しする道具として使えます。

大卒の 1 年目の離職は 12.1%。3 か月未満で辞めた人の半数は人間関係を挙げる

2022 年 3 月に大学を出て就職した人のうち、3 年以内に辞めた人は 33.8% でした[1]。内訳を見ると、1 年目に辞めた人が 12.1%、2 年目が 11.9%、3 年目が 9.9% で、いちばん多いのは 1 年目です[2]。10 人採ると、1 人強は最初の 1 年のうちにいなくなる計算です。

職場が小さいほど、この数字は重くなります。大卒の 3 年以内の離職率は、従業員 1,000 人以上の事業所で 27.0%、5〜29 人の事業所では 52.0% でした[1]。毎年 1〜2 人しか採らない会社では、1 人辞めるだけで翌年の現場の計画が崩れます。

辞めた理由は、勤めた期間で変わります。初めての会社を辞めた若者に理由を 3 つまで聞いた厚生労働省の調査では、勤めた期間が 3 か月未満の人の 52.3% が「人間関係がよくなかった」を挙げ、「仕事が自分に合わない」42.1%、「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」40.8% が続きました[3]。給与より先に、人と仕事と時間でつまずいています。

新人の気持ちが下がる時期も見えています。2025 年卒の社会人を追った調査では、入社予定先に満足していた人は就職活動のときに 91.2% でしたが、入社半年後の勤務先への満足は 78.0% で、13.2 ポイント下がりました[5]。前の年の下がり幅(5.6 ポイント)の倍以上です。

辞めた人と続けている人は、入社後 3 か月の経験が違っていた

では、最初の 3 か月に何があると辞めやすいのか。労働政策研究・研修機構(JILPT)が 2025 年 3 月に出した調査は、そこをかなり具体的に見ています[4]。20〜34 歳の約 8,000 人に、最初に正社員で入った会社の入社 3 か月の経験を聞き、その会社を辞めた人と続けている人で比べたものです。

入社前に聞いた労働時間の長さと違った 辞めた人 12.3% 続けている人 5.5% 指示が曖昧なまま放置された時期があった 辞めた人 21.1% 続けている人 15.9% 従うべき規則や慣習を丁寧に説明してもらった 辞めた人 20.8% 続けている人 25.7% 社内の他の部署の人に紹介してもらった 辞めた人 14.3% 続けている人 17.8% 最初の会社に正社員で入った男性(複数回答)
辞めた人には「放置」と「聞いていた労働時間との違い」が多く、続けている人には「説明」と「紹介」が多い(労働政策研究・研修機構 2025[4])
数値を表で見る
入社 3 か月の経験男性・辞めた人男性・続けている人女性・辞めた人女性・続けている人
入社前に得た情報と、労働時間の長さが異なっていた12.3%5.5%16.7%8.0%
指示が曖昧なまま放置され、何をしたらよいのか分からない時期があった21.1%15.9%20.7%20.4%
その会社で働く上で従うべき規則や慣習について丁寧に説明してもらった20.8%25.7%26.2%30.3%
会社の人が、会社内の他の事業所・部署の従業員に紹介してくれた14.3%17.8%19.1%22.9%
業務をせず研修だけを受けている時期があった47.1%56.2%39.5%47.4%
分からないことがあった時に、自分から会社の人に相談した20.8%25.2%33.0%37.6%

差がはっきり出たのは、入社前に聞いていた労働時間との違いです。男性で 12.3% と 5.5%、女性で 16.7% と 8.0% と、辞めた人のほうが倍以上多く経験していました[4]。報告書は、この傾向が約 10 年、3 回の調査を通して一貫していると書いています。

「指示が曖昧なまま放置され、何をしたらよいのか分からない時期があった」は、男性で辞めた人 21.1%、続けている人 15.9% でした。女性では差が出なかったものの、どちらも 2 割がこの時期を経験しています[4]。逆に続けている人に多かったのは、会社の規則や慣習を丁寧に説明してもらったこと、他の部署の人に紹介してもらったこと、業務から離れて研修だけを受ける期間があったこと、そして分からないときに自分から相談したことです。

これは関係を見たもので、放置が辞める原因だと言い切れるわけではありません。それでも、並んでいる項目はどれも費用がほとんどかからない、受け入れる側の段取りの話です。私たちは、ここに早期離職の対策の中心があると考えています。

オンボーディングとは、新しく入った人が独り立ちするまでを会社が計画して支えること

オンボーディングとは、新しく入った人が職場に慣れ、一人で仕事を回せるようになるまでを、会社が時期ごとに計画して支える取り組みのことです。新人研修や OJT(仕事をしながら教えること)はその一部で、オンボーディングはそれに加えて、入社前の準備、人の紹介、困ったときの聞き先、面談までを含めた受け入れ全体を指します。

多くの会社は、すでに何かをしています。若い正社員の定着のために対策をしている事業所は 73.7% で、多いのは「職場での意思疎通の向上」59.7%、「採用前の詳細な説明・情報提供」58.4%、「本人の能力・適性にあった配置」55.6%、「労働時間の短縮・有給休暇の取得の奨励」52.9% でした[3]。

方向は合っています。ただ「意思疎通の向上」という言葉のままでは、配属先の誰が、いつ、何をするのかが決まりません。前の節の調査で差が出たのは、もっと細かいこと、たとえば最初の 1 週間に指示がはっきりしているか、職場の決まりを誰かが説明したか、隣の部署の人に引き合わせたか、でした。

新人の側の事情も知っておくと、段取りの意味が分かります。2026 年度の新入社員 3,849 人に聞いた調査では、不安の 1 位は「仕事についていけるか」で 60.6% でした[6]。人に頼まれると断れない、または断れないことがしばしばある、と答えた人は合わせて 7 割を超えます[6]。何をどこまでやればよいかを言葉で渡さないと、新人は聞けずに止まるか、断れずに抱え込みます。

早期離職の対策は、入社前から 3 か月までの計画表から始める

受け入れは、人事と配属先の上司のあいだで抜けが出やすい仕事です。人事は「現場に任せた」と思い、現場は「研修は人事がやった」と思う。その間に新人が放置されます。時期ごとに、やることと担当を 1 枚に書いておくと、この抜けが見えます。

下は受け入れ計画の書き方の例です。人数や職種に合わせて、足したり削ったりしてください。

  1. 入社前: 配属先の人と、働く時間の実際を見せる

    配属先の上司と先輩を紹介する。最初の 1 か月の予定表を渡す。繁忙期を含めた実際の残業時間を、改めて数字で伝える。担当は人事と配属先の上司。防ぎたいのは「聞いていた話と違う」です。

  2. 初日: 聞く相手を 2 人決めて伝える

    席・道具・連絡手段をそろえておく。教育係と、教育係が不在のときに聞く相手の 2 人を決めて本人に伝える。職場の決まりと暗黙のルールを説明する。担当は上司と教育係。防ぎたいのは、何をすればいいか分からない時間です。

  3. 1 週目: 仕事を 3 点で渡す

    仕事を「何のために・いつまでに・どこまで」の 3 点で渡す。1 日の終わりに 10 分、分からなかったことを聞く。担当は教育係。防ぎたいのは、指示が曖昧なままの放置です。

  4. 1 か月: 他の部署につなぎ、仕事の量を数える

    上司と 30 分の面談をする。他の部署の人に引き合わせる。抱えている仕事の量を一緒に数える。担当は上司。防ぎたいのは、孤立と、断れずに抱え込むことです。

  5. 3 か月: 上司以外が、入社前との違いを聞く

    人事など上司以外が面談し、「入社前に聞いていた話と違ったこと」と「困った時期」を聞く。次の 3 か月にできるようになることを決める。防ぎたいのは、上司には言いにくい不満の放置です。

3 か月の面談を上司以外が受け持つのには理由があります。辞めたい理由が上司との関係にあるとき、新人はそれを上司本人には言いません。人事が 1 人しかいない会社なら、別の部署の先輩でもかまいません。大事なのは評価に関わらない人が聞くことです。

教育係を専任で置けない小さな会社でも、「聞く相手を 2 人決めておく」と「仕事を 3 点で渡す」は、明日からできます。研修の中身を厚くするより先に、この 2 つを決めてください。

動画は、配属先の人と暗黙のルールを先に見せるのに使う

受け入れ計画のうち、動画が役に立つのは、毎年同じことを人が口で繰り返している部分です。配属先の先輩の顔と人柄、職場の 1 日の流れ、そして「この職場ではこうする」という暗黙のルール。調査で続けている人に多かった「説明」と「紹介」の一部を、入社前に済ませておけます。

暗黙のルールは、規則集に書かれていないから暗黙です。入社 2〜3 年目の先輩に、次の質問で話してもらうと、新人が最初の 1 か月でつまずく場所がそのまま出てきます。

【最初の 1 か月で知っておくと楽になること(1 本 1〜2 分)】
話す人: 入社 2〜3 年目の先輩(できれば配属先の人)

1. 入社して最初の 1 か月で、いちばん戸惑ったことは何ですか
2. 「これは先に聞いておけばよかった」と思ったことは
3. 分からないことは、だれに、どうやって聞いていますか
   (チャットか、声をかけるか、どのタイミングか)
4. この部署の 1 日は、だいたいどんな流れですか
5. 入社したばかりの自分に、ひとこと伝えるなら

撮る前に決めておくこと
・社外に出すか、内定者と社内だけに見せるか
・お客様の名前や社外に出せない話はしない
・話した労働時間や制度が、求人票・就業規則と合っているか人事が確かめる

こうした動画を内定者に見てもらうときは、1 本の長い動画にまとめず、問いごとに分けて、本人が知りたいものを選べるようにすると最後まで見られます。動画で採用では、撮った動画を「シーン」として並べ、「選択肢」でつなぐと、見る人が選びながら進む動画を作れます。どの選択肢がよく選ばれたかが分かるので、内定者がいま何を気にしているかを、入社の前に知る手がかりにもなります。

入社前に何をどこまで見せるかは、大変なことを理由と見返りと一緒に伝える RJP の記事に、内定から入社までの接点の作り方は内定辞退を防ぐ方法に書きました。この記事の計画表は、その続きにあたります。

新人の側から見るとどう見えるかは、姉妹サイトの新卒 1 年目で仕事を辞めたいときに確かめることに書いています。辞めたいと思った新人が、まず誰に、何を相談するのか。受け入れる側が知っておくと、3 か月の面談で聞くことが変わります。

効果は、3 か月と 1 年の人数と、面談で出てくる言葉で見る

受け入れを変えたかどうかは、離職率の 1 つの数字だけでは分かりません。毎年数人しか採らない会社では、1 人の出入りで割合が大きく動くからです。次の数字と言葉を、2〜3 年分並べて見てください。

  • 入社 3 か月・1 年の時点で辞めた人の人数(割合より先に人数で)
  • 3 か月面談で「入社前に聞いていた話と違った」と答えた人と、その中身
  • 3 か月面談で「何をすればいいか分からない時期があった」と答えた人と、その時期
  • 新人が自分から質問や相談をしてくるようになった時期(教育係に聞く)

マイナビの調査では、入社して初めて分かったことで、就職活動のときに知っておけばよかった情報の 1 位は「どのくらい残業があるか」(23.1%)でした[5]。3 か月面談で同じ答えが続くなら、手を入れるのは受け入れではなく、入社前に伝える中身のほうです。面談の言葉は、次に直す場所を教えてくれます。